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ドクターカー

ドクターカーとその必要性

今我が国でのプレホスピタルケア(病院前救急診療)は、消防に属する救急隊員が中心となって行われています。総務省や厚生労働省は、プレホスピタルケアの充実を図るため、平成3年に救急救命士制度を発足させ、おもに心肺機能停止症例に対して限定的に、除細動器の使用、静脈路の確保、器具を使用した気道確保の実施を認可し、さらに気管チューブを使用した気管挿管、心臓収縮増強のためのアドレナリンの薬剤使用も可能となり、プレホスピタルケアに対する処置拡大を図ってきました。
しかしすべての疾病や重症外傷に対して、早期に適切な対応を実施することが困難な状況下にあり、また救急処置や使用する薬剤の制限が多い救急現場では、医師には処置や使用薬剤などの治療内容に対する制限は一切存在しないため、発症早期に直接治療が可能となります。
ドクターカーはラピッド・レスポンス・カー(Rapid response car)とも呼ばれ、一刻も早く医師が救急現場に駆けつけて初期診療を行って傷病者の病態悪化の防止と救命率を向上させることを目的にしています。1分1秒を争って限られた時間内での治療を余儀なくされる重症傷病者に対して、直接現場から早期に適切な治療が可能であり、救急疾患のさらなる治療成績の向上が期待できます。運用方法や車体、装備などに統一された規定は存在せず、医師をはじめとする病院の医療スタッフの使命感に依存して成立するシステムです。ドクターヘリコプターよりも、直接救急現場に到達でき、時間帯や天候の影響を受けずに、24時間の運行がたやすく、年間の維持コストも安く済むのが最大のドクターカー運用の利点です。

栃木県のドクターカーのパイオニア

救急医療の危機が盛んに叫ばれ、地域の救急医療に係る機能が低下している現状において、地域住民の生命を守り、よりプレホスピタルケアを充実させるために、当院救命救急センターでは、6市(足利市、佐野市、太田市、館林市、桐生市、みどり市)にまたがる両毛医療圏を対象として、栃木県で最初のドクターカーの運用を平成21年8月19日から開始しました。運用開始後に、両毛地域におけるドクターカー導入によるメリットが話題なって、栃木県の那須・南那須地域の中核病院である那須赤十字病院救命救急センターが、さらに小山・芳賀地域では自治医科大学附属病院救命救急センターも、ドクターカーの運用を始めました。当病院救命救急センターは、栃木県ドクターカーのパイオニアであり、県の病院前救護体制の再構築や救急医療の活性化に‘起爆剤’として貢献するきっかけになったのではないかと自負しています。

運用システム

超急性期重症病態に攻めの救急医療への実践。

当院が導入しているドクターカーは、平成20年4月25日公布の道路交通法施行令改正によって、患者搬送機能を持たない普通乗用車(日産X-TRAIL)を改造し、医療器材や医療薬品を搭載して緊急自動車として登録したものです。自ら医師が運転することも可能であり、救急専門医、ドクターカー当番看護師、病院内救急救命士などがドクターカーに乗り込んで、赤色回転灯を点け、サイレンを鳴らしながら緊急走行しつつ、出動救急隊、消防本部と相互に連絡を取あって、いち速く救急現場や搬送途中の救急隊に最短の接触時間ですむ道路沿いのドッキングポイントの場所を通知し駆けつけます。
現場活動では、救急隊と当院スタッフである院内救急救命士、ドクターカー当番看護師の役割分担が明確化され円滑なチーム連携を行ないます。研修医が同乗した際には、救急現場活動の指導にあたることも多いです。初期診療の終了後、継続治療を行いつつ傷病者の病態から適切な医療機関を選定し、病院まで当院スタッフが救急車に同乗し収容病院まで再搬送を行います。家族や第3者は傷病者と供に救急車に同乗しますが、高度な継続治療を実施しているときは、ドクターカーに同乗して搬送病院まで同行します。
ドクターカー出場基準は、平日の日勤時間帯(午前9:00~午後5:00)で、傷病者の状態が、
 
  1. 死亡確認の困惑例
  2. 心肺機能停止例
  3. すべてのショック例
  4. 高エネルギー外傷による受傷機転
  5. 多発外傷を疑う例
  6. 閉じ込め事故例
  7. 重症意識障害を認める例
  8. 緊急性の高い呼吸不全
  9. 急性腹症
  10. 急性薬物中毒症
  11. 広範囲熱傷
  12. それ以外に救急隊/救急救命士が円滑な現場活動にはドクターカーが必要

と判断した場合です。従って重症以上の病態における出動基準となっています。救命救急センターで通常の救急業務に著しく支障をきたすときの出動は控えています。
またMC(メディカルコントロール)で救急隊員や救急救命士に、救急現場活動の教育を日頃から行っているため、ドクターカーの出場要請は、キャンセルを容認して救急隊長の判断にゆだねています。119番通報でのキーワード方式による出動要請も平成27年度より受け入れております。

運用を開始して

運用開始後7年半がたち出動件数は250例にのぼっております。足利市街地の救急現場から当救命救急センターまでは5、6分の搬送時間のため、市街地からは直接救急車で搬入されることが多く、おもに10分以上かかる足利市内から、次いで佐野市、館林市、太田市の順に出動し、桐生市、みどり市からの出動要請はありません。疾患の内訳では、外因性疾患の出動(交通事故、労働災害、墜落外傷など高エネルギー外傷、多発外傷、急性中毒症、溺水など)は75% 。内因性疾患の出動(脳卒中、急性冠症候群、呼吸不全など)は20%、キャンセルは5%です。
ドクターカーの導入効果で強調したいことは、導入以前では救急現場や病院到着前で心肺機能停止に陥ったと考えられる外傷性ショック、重症頭部外傷、急性心筋梗塞による心原性ショック、アナフィラキシーショック状態の傷病者が救命されて社会復帰したことです。心肺機能停止例では90%の心拍再開率を誇ります。さらに救急現場などに直接出向くため、伝聞情報より的確な情報が得られるため、適切な診療が実践できるのは言うまでもなく、病院到着前の段階で予後判定の推測も可能になりました。 ほとんどの症例で傷病者の初療遅延はなくなり、病態の悪化を防ぎ状態を安定させることが可能になりました。貴重な生命が救われた傷病者は少なくありません。
また病状の不安を抱える傷病者と家族から「ここ(現場)まできてくれて助かった」いう安堵感が不安を軽減させ、「大丈夫だから、心配ないですよ」という声がけにより、今後の治療の励みとなった傷病者も多くみられます。ドクターカーによる現場活動を地域住民が実際に見ることによって、自分たちの地域の救急医療は「大丈夫である」という認識が得られます。「いざと言うときにはドクターカーが来てくれる」とさらに口伝えで広まっていけば、日々の暮らしに安心感が生まれます。医学統計では、このような間接的な効果は明記されませんが、図り知ることができません。さらに救急隊や救急救命士の救護活動と研修医や病院スタッフに対して病院前MC(メディカルコントロール)体制についての直接指導と教育ができるため、さらなる知識と技術の向上につながっています。
最後に、平成23年の3月11日の東日本大震災発生時、直ちに院内災害対策本部を設置し、速やかにドクターカーを足利市内に出動させて街並みを動画撮影しつつパトロールし、幹線道路から市内の被害状況を把握して、当院の災害の超急性期対応に活かすことができました。その後医療物資や緊急時の食糧を積載して宮城県石巻赤十字病院に出動し支援活動に協力しました。
新たに集団災害などが発症した際には、ドクターカーは大活躍するでしょう。
最近はドクターヘリ、防災ヘリとのドクターカーとの連携も積極的に行われるようになり、これからも地域住民の皆さんのためにさらなる有用な運営方法を検討してまいります。当院のドクターカーシステムに対してさらなるご協力とご理解とを何卒よろしくお願いいたします。
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